黒いノートパソコンと書類の束が乗ったダークブラウンの執務机の向こうで、革張りの椅子に深く腰掛けながら青年がスマホで通話をしていた。

「ほう、拓斗が結婚」

 青年はその内容に、眺めていたパソコンのモニターから視線を外し、クルリと椅子を回して外の景色に目をやった。

 全面硝子張りの窓の外は森だ。

 夏だというのに霞みがちな青空の中に乱立する、暗色の高層ビルの森。激しい熱を放出していると思われるその森を、さらりとした温度の中から眺める青年は、電話の向こう側にいる相手に訊ねる。

「それは奏一郎殿がお喜びだろう。相手は……ああ、天神の。ふむ、では手は抜けんな。希望はあるのか? ……ああ、手配しておく」

 スマホから「悪いね」という声が聞こえてきて、青年は微かに笑みを浮かべた。

「構わん。私の時はお前に世話になった。互いに面倒だったな」

 くつくつと、電話越しに重なる笑い声。

「拓斗はそこまでせんのだろう? ……ああ、成程、その方が友人たちも気安くて良かろう。存分に手を貸してやれ」

 黒い瞳を細め、青年は頷く。清潔感漂う黒髪がサラリと揺れた。

 それから拓斗の式について僅かな時間話し合った後、互いの家族の近況を報告しあったり、お茶会のあたりからシンとリィの主治医となった青年の親友、櫻井聖について語り合ったりした後、通話を切った。

 青年は笑みを残したまま立ち上がり、執務机の上にある電話の内線ボタンを押した。

 ほどなくして自動ドアが開き、白いブラウスに紺のスカートの、秘書らしい女性が入ってきた。スレンダーな体型にキリリと引き締まった中性的な顔立ちの女性は、一礼してから青年と向き合う。