「こんばんは。今日はお兄ちゃんや拓ちゃんが来るって聞いて、一緒にお食事しようと思って来たの」

 にこやかに笑う花音は、今の出来事などなかったかのように振舞いながらダイニングテーブルにつく。

「……花音」

 目の前に座った妹に、拓斗が声をかける。

「なぁに?」

「ありがとう」

 礼を言うと、花音は首を傾げた。

「何の話?」

「さっきだよ。五所川原の」

「……私は花音だもの。五所川原くんのことは知らないよ?」

 そう言って微笑む顔は、昔よりも随分大人びていた。……中身がどうあれど、人は変わるものである。



 それからは楽しく会話しながら──主に拓斗の検討を祈る会な内容だったが──食事が進んだ。

 それを微笑ましそうに見守るシンとリィ。

「拓斗さん、うまくいくといいな」

「うん」

「結婚かー。なんか俺たちには遠い話だな」

「うん」

「そもそも、好きとか、付き合うとかも良くわかんないし。イメージとしては、父さんと母さんみたいな仲良しな男女、だけど」

「うん……そうだね。憧れるけど……よく、わからないかもしれないね……」

 まだまだ子どものシンとリィには、結婚という文字がピンとこないようだ。なにせ、目の前の相手を『好き』かどうか、ということだけでいっぱいいっぱいなのだから。

 それでもいつか。

 両親のように。

 琴音や玲音の両親のように。

 この世界にいるたくさんの幸せな家族のように。

 ……いつか。