「黒爪対策……?」

 リィはこてん、と首を傾げた。

 最近天神学園付近に、黒爪(ヘイツァオ)という名の殺し屋が出現していて、シンたち瑠璃一味が狙われているのだ。シンはその対策に女装をしてみては、と思いついたのだった。

「そうだよ。何怖いこと想像してんだよ。俺が女になりたいとかありえないだろ。こんな格好してたら普通に恥ずかしいっての」

「……ごめんね」

 そのわりに、恥ずかしがる様子のまったくないシン。

「任務のためと思えば別に恥ずかしくなんてないさ。黒爪、いつ出てくるか分かんないってのに、四六時中みんなにベッタリくっついて守ってやるってわけにはいかないだろ。なにか対策をしないと駄目だと思って考えてたんだよ。この間めのうと龍之介も襲われたしな」

 メイド服のバッチリ女の子の格好で胡坐をかいてソファに座るシン。

 それを見て、いつの間にいたのか、玲音がそっとシンの足を伸ばしてしっかり閉じてやった。

「せっかく愛らしいお姿なんですから、姿勢にも気をつけてくださいね」

 と、アドバイスもしてやっている。

 それに適当に頷きながら、シンは続ける。

「いつも気を張ってるってのは疲れるからな。黒爪たちの目を誤魔化すいい方法はないかと思ってさ。で、父さんが昔、女装して潜入捜査したことがあるって言ってたのを思い出して。そうやって身を隠してみたらどうかと思ったんだ」

「それで……」

「いつもリィに言われてるもんな。もっと頭使って戦えって。……どうだ? いい案だろ?」

 目をキラキラさせているシンの顔には、『どうよ、俺だってやれば出来るんだぞ! 凄いだろ?』と書いてあった。

 リィは長々とため息をつく。