膝を抱えるリィと、両手を後ろについて空を見上げているシン。無言の時を過ごす2人を、そっと包み込むように雨音が響いてきた。

 さあさあと、空から落ちる音。

 ぽた、ぽた、と軒から落ちる音。

 ぱた、ぱた、と葉を揺らす音。

 ぴたん、ぴたん、となにか硬いものに跳ね返る音。

 気をつけていれば、確かに色んな音が聞こえる。それをジッと聞いていたら眠くなってきた。シンは欠伸を噛み殺す。

 その隣ではリィも眠くなってきたらしく、同じように欠伸をしたあと、頭をシンの肩にこてん、と乗せた。

「……なあ。暑いんだけど」

 梅雨の時期は気温が高くなくとも、ジメジメとした空気がまとわりついてきて気持ち悪い。そこに眠くて体温の高くなった妹が寄りかかれば不快指数も上がるだろう。

「ん……」

 リィはそれだけ言って、シンから離れようとはしない。むしろ更に密着してくる。

 彼女は眠いといつもこうだ。眠くなると人にくっつきたがる癖がある。

「暑いってばー」

「んー……」

「暑いー」

「……」

 軽く肩で押してみても、リィが離れる気配はない。このまま本格的に寝るつもりじゃないだろうなと、強く揺り起こそうとしたのだが──。

 ふと思い直して、肩の上に乗るリィの頭に、更に自分の頭を傾けた。

 雨の匂い──雨の降る地面や草の匂いの中に、甘い香りが混じった。

 シャンプーなのか、石鹸なのか。使っているものは昔と違うはずなのに、それは幼い頃から慣れ親しんだリィの匂いだ。

 隣にあるのが当たり前の匂い。

 けれどもこれからはきっと、当たり前じゃなくなる匂い。

 ジトジトした湿気は不快だし、暑さに少し参ってしまうのだけれども。

 生まれたときからずっと隣に在ることが当たり前だったものが、気づかないうちに、自然のうちに離れていく。

 改めてそれに気づくと、離れがたくなるのは何故だろう。



 もう一度欠伸をしたシンは、リィと同じく目を閉じる。



 雨音と、妹のぬくもり。

 永劫には続かない、刹那の思い出。