「それは……」

「てか、川くらい泳げよ。相手が泳げないなら、自分が頑張ればいい。頑張った方を労えばいい。どんな困難をも乗り越えてこその夫婦だろ? 他人に何を言われたって、自分たちの想いを貫かなきゃ。それがどんな結果を生もうとも、互いを信じて、信頼して、共に在ること。それが添い遂げるってことじゃないのか」

 シンはそう語った。

 両親を見て育てば、普通に出てくる意見だった。

「……」

 リィは何か言いかけたが、微かに笑みを浮かべて、こくりと頷いた。

 シンは思考が直球過ぎて、萌えも理解出来ないし色恋にも疎い。だが、彼はそこがいいのかもしれない。

(戦闘においては、もう少し、変化球も覚えて欲しいところだけれど……)

 それはまた、別の機会だ。

 リィはシンから庭へ目をやる。

「……あ。霧雨になった」

「霧みたいな雨だから?」

「そう。だから、霧雨」

 細かい雨のシャワーで、庭の緑が更に霞んで見える。

「雨にもたくさん、名前があるんだね。……同じ時期に降る雨でも、いろいろ、違う名前がついていて、面白いね……。皇都では、そういうの、なかったから……」

「そうだよな。……皇都はあんま雨降らなかったから、そういう名前がなかったのかな」

「うん、そうかもね。今は水路が整備されているから、不便さは感じないけど……昔は水の確保が大変で、情緒を感じている余裕もなかっただろうから……言葉が生まれなかったのかもしれないね」

「なるほどな」

「でも、父様の生まれ故郷は、水は豊富だったらしいから……もしかすると、この国と同じような名前も、あるかもしれない……」

「じゃあ今度父さんに聞いてみよう」

「うん」

 そこで会話が途切れた。