「何してんの?」

「……雨音、聴いてる」

 その雨音に掻き消されそうなほど、小さな声で答えるリィ。シンは首を傾げた。

「雨音? ……それ、楽しい?」

「さっき、琴音たちが弾いてくれた曲……素敵だったから」

「ああ、えっと……『雨だれ』、だっけ」

「うん。ヴァイオリンからも、ピアノからも、色んな音が聴こえたから……実際に、聴いてみてる」

 そう言ってリィは目を閉じた。庭に響く雨音を耳で拾い集めるように。

「ふーん。同じ音がするのか?」

 シンは冷たい雨を降り落とす灰色の空を見上げた。

 それから、代わり映えのしない静かな音が響く庭を眺め、首を捻りながらリィの隣に座ってみる。静かに耳を澄ます妹と同じ位置で、同じ高さで、同じように目を閉じてみる。

 だがしかし、シンには橘家の人々が奏でた音と、同じ雨音がするとは思えなかった。

「よく分かんねぇ」

 そう呟いたら、くすりと笑われた。

「シンには、分からないかもね」

 その言葉にムッとしつつ、両手を後ろについて、空を見上げた。

「俺、雨季は嫌だなー。なんかジメジメしてるし」

「雨季……この国では、『梅雨』っていうんだって……この間、みんなに教えてもらったよ……」

「ああ、そういやそうだっけ」

「5月から7月にかけて降る雨……。旧暦の五月に降る雨だから、『五月雨』ともいうみたいだけど……」

 リィはこの世界の知識を一気に脳に蓄積しているせいか、たまに間違えて発言をすることがある。先日も梅雨を『めんつゆ』と勘違いしていたため、きちんと調べ直していた。