汗をシャワーで流してバスルームを出ると、リィがじっと鏡を覗き込んでいた。

「どうした? ご飯食べようぜ」

「うん」

 声をかけても、リィは鏡をじっと覗いている。

「……ねぇ」

「ん?」

「真っ直ぐじゃない方が、いい?」

 チラリとシンの方を向いて、そう言うリィ。

「髪? 別に、どっちでもいいんじゃないか? ……俺は、ふわふわしてる方がリィらしくて好きだけど」

「私、らしい?」

「だって昔はそうだったじゃないか。俺はそっちの方が見慣れてたし……お前、真っ直ぐだと母さんにそっくりなんだよな。別に似てるから悪いってことはないけどさ。リィはリィなんだから」

「……そう、だよね」

 リィはじっと鏡を見つめる。

 その目が見つめるのは過去の自分。

 元々、リィはくせっ毛だ。子どもの頃は長く伸ばしていたし、それは綺麗に波打っていたものだ。それを真っ直ぐに伸ばして、母に似せようとして、好きな人の気を引こうとして。

 結局、恋に破れて切ったようだが。

「うーん……」

 毛先を指で遊ばせながら、リィは少し悩んでいるようだ。

 髪を真っ直ぐにしなくてもいいのなら、失恋の痛みももう大丈夫なのだろうと、シンは先にリビングへ行く。

(大丈夫だ。もう、色々、大丈夫なんだな……)

 簡易キッチンにある冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、コップに注ぐ。


 修行も、恋も、トラウマも。

 いつまでも同じではない。前に進んでいる。

(俺も)

 子どもの頃のように、ただ泣き叫ぶだけの非力な存在ではないはずだ。守りたいものを守れる力も、共に戦える仲間もいてくれるのだから。

(大丈夫)