ふわふわしたハニーブラウンの長い髪を、低い位置でツインテールにした幼い少女が、こちらに背を向けて立っていた。

 膝までの白いローブは薄汚れていて、ところどころ破れている。ひと月前に購入してもらったそれは、猫耳の愛らしいフードがついていたが、今それは無惨に千切れてしまっていた。

 破れてボロボロになった、その白いローブの裾が揺れている。

 ふわふわのツインテールも揺れている。

 少女は震えていたのだ。

 小さな両手に握り締めた銀色のバタフライナイフが、カチカチと小さく鳴っている。ローブから覗く細い足も、哀れなほどに震えている。

 少女は全身で恐怖していた。

 後ろから見ていて、それが嫌というほどに分かった。


『逃げろっ……』


 本当はそんなこと言いたくなかった。

 最後までずっと、傍にいて欲しかった。

 少女と同じく、少年も恐怖していたのだ。

 逃げたくて仕方なかったけれど、今、彼にそれは出来なかった。だからせめて、誰かに──生まれたときからずっと傍にいる妹に、最期まで隣にいて欲しかった。

 ひとりは嫌だ。

 ひとりで死ぬのは嫌だ。

 心のどこかでそう思っていた。

 けれども、自分がそうであるように、目の前にいる妹も恐怖を感じている。それが痛いほどに分かるからこそ、『兄』として、泣きながらでも『逃げろ』と、そう言わなければならなかった。

 
 決死の覚悟を背中で受けた妹のツインテールが揺れた。

 震えのためではなく、否定のために。