……数時間後。

 方向音痴な勇者子息は、ボロボロの体で帰ってきた。しかしその表情は達成感に溢れ、輝いていた。赤い頭の上に乗っている青いスライムの笑顔も心なしか輝いていた。

「リィ、俺はやったぞ。襲い掛かかってくる死体の山を斬って斬って斬りまくって、豆腐を担いで逃げてやったぞ……!」

「うん。シン、がんばったね……おかえりなさい……」

 リィは無事に生還した兄をねぎらう様に抱きつき、頬にお帰りなさいのキスをした。

 毎日おはようとおやすみの挨拶で慣れている頬へのキスも、偉業を成し遂げた後だと格別なものに感じる。

「へへ、ただいま」

 嬉しさを隠しきれない緩んだ笑顔で、シンもリィの頬にただいまのキスを贈る。

「兄ちゃん、お帰りなんしょー。迷子じゃねぐなって、いがった(良かった)ないー。おれ、心配したんだぞい」

 シルヴィもぴょん、とシンに飛びついた。

「心配かけたな。でも兄ちゃんは元気だぞ。あ、これお土産」

 と、シンは青いベレー帽をシルヴィの頭に被せてやった。

「それ、天神モールで買ってきたの……?」

「いや、助けた豆腐から貰ったんだけど……」

 シンはシルヴィに頬ずりされながらリィにそう答えて。

「……あ」

 天神モールに行っていないことに気づいた。もちろんプレゼントも買い忘れ。一体何しに行ったのだろう。赤い頭の上の青いスライムがプルプル揺れる。

 屋敷の外はすでに暗闇に包まれていた……。