「おかしいな。天神モールって駅からすぐだったような気がしたんだけど……」

 降り立った駅からしばらく歩いてみて、どうも見覚えのない場所に出てしまったようだと、キャップを外して赤い髪に手を突っ込むシン。

 しばらく辺りを見回していたシンは、仕方なくスマホを手にした。



 
 いつものように橘邸の書庫で読書に耽っていたリィは、軽やかな電子音に顔を上げた。

「はにゃっ、姉ちゃん、でんわだ、でんわー!」

 絨毯の敷かれた書庫の床に座り込んで絵本を読んでいたシルヴィが、ぴょん、と飛び上がる。そうして、近くのテーブルの上に置いてあったリィのスマホを両手で持ち、トテトテ走った。

 リィは書架にかかっている梯子の上に座って読書をしていたので、読みかけの本を棚に戻してから梯子を降りた。

「シルヴィ、ありがとう」

「どういたまして!」

 妹の頭を撫でてやってからスマホを受け取ったリィは、ディスプレイに表示されたシンの名前を見て、用件の内容を把握した。

「もしもし、シン? 迷ったの?」

『うっ……うん、そうなんだ。迷った……』

「だから一緒に行こうって言ったのに……迎えに行こうか?」

『いや、大丈夫だ。これから天神モールに行きたいんだよ。ナビしてくれねぇ?』

「いいけど……近くに何か、場所が分かるような建物とか、ない?」

『うーんとー、畑? 田んぼ? がいっぱい』

「田んぼ……? どのくらい電車に乗ったの?」

『15分くらいのはずだけど』

「もしかして、反対方向に行っちゃったんじゃない……?」

『あはは、やっぱそうか? そうじゃないかと思ったんだよなー』

 スマホの向こうから暢気にケラケラ笑う兄の声が聞こえる。リィは軽く溜息をついた。