勇者子息は方向音痴である。

「……困った」

 元気よくはねている赤い髪に手を突っ込み、シンは深いため息をつきながら辺りを見回した。


 ゴールデンウィーク中、瑠璃一味と共に天神モールへ買い物(ていうか荷物持ち)に行ったシンは、リィから服をプレゼントしてもらった。

 あまり外見を気にしない彼ではあるが、そこは一応思春期の男子である。『興味』の内訳が『剣』と『強くなること』に占領された、チューニビョーに片足突っ込んでいるシンでも、隅っこの方にお洒落ゾーンが確かに存在しているのだ。

 そんな彼にプレゼントされたのは、シンプルなTシャツに、どんなスタイルにも合いそうなチノパン、それにシンが好んで履くハイカットシューズだった。これらはすべて仲間たちの援護で手に入れた、80%オフの戦利品である。着やすいし動きやすいので、シンはとても気に入っている。

 今日もプレゼントされた服一式に、靴に合わせた黒と赤のキャップと、同色のワンショルダーバッグを持って外に出た。今月のお小遣いが両親から送られてきたので、服をくれた妹、そしてもう一人の小さな妹に何かプレゼントを買いに行こうと思い立ったのだ。

 出かけるときは大抵リィと一緒なのだが、今日は妹たちへサプライズプレゼントをするつもりだったシンは、一人で橘邸を出て電車に乗った。

 しかしそれが間違いだった。

 前述した通り、勇者子息は方向音痴なのである。

 それは彼自身にはどうしようもない欠点だった。何故ならば、父であるフェイレイがそうだからだ。方向音痴は血なのである。抗えない遺伝子の成せる業なのである。

 様々な星を旅してきた経験から言わせると、日本は標識の乱立した、旅行者には鬱陶しいくらいに親切な国である。

 それなのに迷子になってしまった。