「うん……ちょっと、海で、溺れたことがあるからね……」

 そう言って、少し遠い目をするリィ。

 星を巡る旅をしていた頃に、船から海に落ちて、更に海獣に襲われたことがあった。ちなみに、ほぼシンのせいであり、シンも一緒に溺れている。

 なのにそのシンは、黄色と青のコースロープの向こうで、水泳選手並のスピードで泳いでいる。同じ体験をしておきながらまったく動じない兄にほんの少し嫉妬し、そして尊敬もしているリィである。

「誰にでも苦手なものはあるものですね」

 琴音はほっとした顔でリィの隣を歩く。料理音痴、裁縫音痴、そして泳ぎも駄目な琴音は、何でも出来るリィにも苦手なものがあると知って、少し安心した。

「そりゃあそうだよー。なんでも出来たら神様だよー」

 玲音はかわいい笑顔で水をかく。

 3人はこの中で唯一泳げるシンに、水泳を教えてもらおうと思っていた。もうすぐ夏が来る。プールの授業がやってくる。その前に、今年こそは泳げるようになりたいと思ったのだ。

 しかしその先生は自分との戦いに挑み中である。

「シンは熱中すると長いから……今日は私たちだけで、練習、しようか」

「そうですね。まずは水に慣れましょう」

「うふふー、じゃあ……えいっ」

 玲音が水の中から片手を上げると、琴音とリィに水飛沫が飛んだ。

「きゃっ」

「もう、玲音……」

 琴音とリィは一瞬目を瞑ったものの、すぐに笑顔で臨戦態勢を整え、楽しい水かけ合戦が始まった。