「それで、女王たちは何か言っていたかい? 名前について……」

「うーん、いや、別に何も言われなかった」

「やはりね。名前が問題なんじゃない、血が問題なのか。……それと、心、かな」

 本をパタリと閉じて、ルドルフは考え込むように呟く。

「役に立ったか?」

「ああ、色々とね。参考になった」

 ニコリと微笑んだルドルフは、立ち上がってシンのもとへ歩いてきた。

 そして頭ひとつ分高い位置からシンの背中を覗き込み、ふっと笑みを漏らした。

「ああ……リィは眠ってしまったんだね。こんな小さな女の子には負担が大きかっただろう。私も2日程意識が戻らなかった。あれは本当に魔力を使い切ってしまう。身体の中からすべての力が奪われていくかのようだった……。シンは本当に平気なのかい?」

「このくらい何でもねーよ」

 ふふん、と笑ってみせるシンだが、リィを背負う足は若干ふらついていた。それに目敏く気付いたルドルフだが、敢えて指摘せずに神殿を出ようと促した。誰にも見咎められずにここを出なければならないからだ。

 ここは皇族以外立ち入り禁止区域。本来ならばシンとリィは入れない場所だから、見つかったらタダでは済まない。

「もうすぐ警備交代の時間だ。この隙に」

「分かった」

 リィを何度か背負い直しながら、湾曲する廊下をほぼ駆け足で通り抜ける。

 突き当たりにある、翼を広げた不死鳥に王冠を模した紋章の描かれた扉を開ければ、出口だ。

「後でゆっくり、女王たちと交わした会話も聞かせてもらえないかな」

「うん、いいよ」

 そう会話しながら扉をそっと押し開いて。

 向こう側で美しく微笑んみ佇んでいた水色の髪の美青年に、心臓が飛び上がった。