寝るにはまだ早い時間なので、シンはバランスボールに揺られながら漫画を読む。瑠璃に借りた『菜野人』の武勇伝を認めた物語だ。

 菜野人の活躍に目を輝かせていると、リィが風呂から戻ってきた。

「髪、乾かしたかー」

「うん」

 リィはシンのところにやってきて、手元を覗いた。

「……それ、面白い?」

「ん? ああ、すっげー面白い! カッコイイから読んでみろよ! そうだ、霸龍闘にも借りてきてんだよ、これもオススメ!」

 バランスボールから飛び降りて、自分の部屋から借りてきた漫画本をリィに渡す。

「……霸龍闘もこういうの好きなんだ」

「面白いからな!」

 にかっと笑いながら渡された本の山を見て、リィは「ふうん」と呟いた。

「霸龍闘は西部劇が好きなのかと思ってた……」

「ガンマンだって格闘技好きだろ。霸龍闘んとこは拳法やってるし」

「そうだね。あの体術は、すごいね……」

 瑠璃と霸龍闘の決闘の様子でも思い出しているのか、リィは感心したような顔で頷く。

 それからリィは、先に貸した瑠璃の本ではなく、霸龍闘から借りてきた本を手にバランスボールに座った。

「あれ、そっちから?」

「うん」

 リィはバランスボールに揺られながら、本を開く。

 その横顔を見ていたシンは、あれ、と思う。


 早川霸龍闘。

 両親が尊敬するにゃんにゃん先生の息子で、ガンマンであるしまじろう先生の息子でもある。霸龍闘はどちらかというと父親の方に似たようで、彼も優秀なガンマンだ。

 同じ銃使いの彼に、リィは最初から興味を示していたけれど。

(あれ)

 そういえば、先日霸龍闘のせいで泣いていなかったか。

(でもあれは俺の勘違いで)

 いや、でも、しかし。

 最近はよく2人きりで楽しそうにしているではないか。



 バランスボールに座りながら本を読み耽る妹に、努力の原因を垣間見た兄であった。