リィは跳んだ。

 階段の一番上から、泉から顔を出して力説している馬鹿兄の頭目掛けて。

 そうして両足で赤い頭を踏みつけ、そのまま泉の底に沈めた。

「……えぐれてない……ちゃんと、あるもん……これからもっと、育つんだもん……」

「がぶがぼぼおうっ」

 水底でもがくシンは、リィの両足首を掴み、上に押しやった。

「っ!」

 バランスを崩したリィは、背中から水に落ちる。シンはリィの足首を掴んだまま水から顔を出した。

「あー、苦しかったー」

 ばちゃん、ばちゃんという水音を背後に聞きながら深呼吸。

 ばちゃん、ばちゃんという水音を聞きながら、リィの片足から手を放し、鼻血と水に塗れた顔を拭おうとして。

 ばちゃん、ばちゃんと水中でもがくリィに気づいた。

「あ、ごめん」

 足首を放すと、すぐにリィが顔を出した。

 ケホケホと軽く咳き込むリィの背中をトントン叩いてやるシン。

 しばらくそうしていたら、シンの顔を見上げたリィが、ふわふわと笑い出した。

「シン、変な顔。鼻血すごいよ、ふふふっ」

「これはリィのせいだろっ」

 ほんの少しだけムッとしたものの、手の甲で鼻をゴシゴシ擦り付けているうちに、シンも可笑しくなって笑い出した。

 そうしてまた水の掛け合いが始まる。

 楽しそうな笑い声が白い部屋に木霊する、微笑ましい光景ではあったが。

 お前ら儀式やる気ないだろう、という禊の時間だった。