「それで、あの、李苑様。先日お渡しした薬草のことなんですけど……」

「ええ、後でお父様に詳しいお話をしようかと思っていたのよ?」

「父はあの通り、忙しいようなので、分析結果だけでも預かるようにと言われています」

「そうですか? では……」

 李苑は聖を振り返ると、お互いに軽く頷きあって、聖のスーツのポケットに入っていた封筒を琴音に渡した。

「この中に薬草の成分データを入力したUSBメモリが入っていますので、間違いなくお父様に渡してくださいね」

「はい、お預かりします」

 しっかりと封筒を握り締め、琴音は頷いた。

「それで、あの……これと同じものは作れそうですか? それか、代換品などは……」

「うん、成分からすると漢方薬に類似しているから、葛根湯あたりで代換え出来るらしいよ。ただ、薬としては弱いからね。気休め程度になるかな。こっちの抗生剤が使えるといいんだけど……」

 聖がそう説明する。


 先日、リィ、そしてシンが熱を出した。あのときは時間差だったので、シンに魔力を指輪に注いでもらってフェイレイとリディルに助けを求めることが出来た。

 だが、2人同時に倒れたらどうだろう。

 もし急性的に進行するような病気に罹ったら、精霊を召喚する力もないほど弱ってしまったら。琴音たちはどこまで対応出来るだろうか。父の和音もそのあたりを心配し、薬に詳しいこの2人に協力を仰いでいたのだ。

「大切なお客様をお預かりしているものですから……。出来る限りのことはしたいんです」

「ええ、分かっています。私たちも出来る限りの協力をしますからね?」

 だから安心して、と言うように李苑が微笑んだ。

「いざというときには、私に連絡をしていただければ何とかしますから」

「……なんとか、ですか?」

「ええ」

 花のように微笑む李苑には、他人を安心させる何かがあった。だから琴音も玲音も笑顔で頷くことが出来た。


 更に研究を進めてくれるという綺麗で素敵な2人に礼を言い、食事をしにホテルの中へ向かうと、立食ブースで目を輝かせて食事を楽しむシンとリィがいた。

 2人の元気な様子に、琴音も玲音も嬉しそうに笑うのだった。