「……そうか」

 身体の前面すべてで雨粒を受けながら、シンは確かな手応えを掴んだ。

「俺が合わせられてる……いや、動かされてる……うん、いや」

 ガバっと起き上がり、リィに届かなかった自分の拳を眺める。そして確信に満ちた声で叫んだ。

「俺の動きを“遅らせてる”のか!」

 そう叫んだら、リィはひと呼吸置いて、そしてほわん、と微笑んだ。

「正解」


 フェイントの応用。

 相手の五感すべてを利用して自分の思った通りのところへ動かす。だがそれだけではシンには勝てない。彼は更に上をいくスピードで襲いかかってくるからだ。

 だから、遅らせる。

 リィの動きを誤って伝えた上で、視線で制御する。並列思考で戦局を見ているリィだからこそ出来ることだ。だからシンにそれを真似ることは出来ない。出来ないから、自分のやり方で、それを回避する。

「よっしゃ、もう一回!」

 確かな手応えを掴んだシンの声は明るい。だが、リィはふう、と重い溜息とついてふるふると首を振った。

「ごめん、シン。今日はもう、終わり」

「えっ?」

「……あたま、いたい」

「ええええ!」

 リィは風邪をひいた。疲れが溜まっていたところに雨に打たれれば、そりゃ風邪も引くだろう。

「ごめん、大丈夫か!? 熱は? そうだ薬! すぐに父さんたちに薬を送ってもらおう! それともシルフ召喚か?」

 言いながらリィを抱き上げ、部屋まで走る。

「極力自分で回復しないと、だめだよ……っていうか、自分で歩けるから……下ろして……」

「駄目だ! 酷くなったらどうすんだよ! そうだ、すぐ風呂沸かしてやるから、早く身体をあっためろ。ご飯は食うか? 食えるときに食っとけよ!」

「……シン、うるさい……耳元で大きな声出さないで……」


 その後リィは三日ほど寝込んだ。

 あまりにも高熱を出したので、シンは周りが苦笑するほどオロオロしていたそうな。