(……ん、そうだ。リィは父さんみたいな人と結婚すりゃいいんだ)

 昔のことを思いだして、シンはうんうん、と頷く。

 だからあの水色の人のことはもう引きずるな、と前の席に座っているリィの背中に訴えかける。

(兄ちゃんは、フリンは許さないぞー)

 じとーっとした目を向けていると、視線を感じたのかリィが振り返った。

 なあに? と訴え掛ける目に、更に「父さんみたいな人を好きになれー」と念を込めて睨みつけてやった。





 次の日の朝も、その次の日の朝も、シンとリィの修行は続く。雨の日も、風の日も変わらない。水に浸る芝生の上を今日も転がされて、シンはグッと奥歯を噛み締めた。

 何度拳を撃っても流され、蹴りを入れてもかわされ、ここだと思って踏み込めば凄まじいカウンターで吹き飛ばされる。

(なんだ。どこが駄目だ)

 起き上がると、灰色の雨の中、リィが無表情にシンを見下ろしていた。シンはぎゅっと拳を握り締めると、地面を踏み抜いてリィに突進した。

 高速歩法で一気に間合いを詰め、拳と足の連打。だが避けられる。拳が叩くのは冷たい雨粒だけだ。それでも攻撃の手は緩めず、確実にリィの動きを読んで、読んで、合わせて、踏み込む──。


 目が、合った。


 翡翠色の瞳と目が合った。

 静かな色の中に凄まじい闘気を秘めた瞳が、シンの深海色の瞳を見ていた。


「──!」


 気がついたら吹き飛ばされていた。

 でも負けたとは思わなかった。