凄まじい集中力でシンの動きを読み続け、無駄なく攻撃を避けていた。シンの攻撃は避けなければ深いダメージを負う。それだけの威力があるのだ。

 避けながら、自分がするべき動きを瞬時に導き出す。並列思考とでも言うべきか。常に同時に複数のことを考えているのだ。

 リィは戦闘中は常に脳がフル回転している。精霊を同時召喚し、なおかつ同時に魔銃を撃つ、ということをするにはその能力は必須であった。

 その反動なのか、日常においては常にぼうっとしているが。

 今のリィは同時に思考を展開し、シンの動きと自分の動きを冷静に判断している。逆に言えば、そうまでしないと兄にはついていけない、ということだ。

 リィはシンのことを、天然の天才だと思っている。どんなに理詰めで押し通そうとしても、するりと逃げられる。いや……突破してくる。それだけの動きが、シンは出来る。

(でも)

 パン、と乾いた音が庭に響いた。シンの拳をリィが払い落としたのだ。

(まだまだ)

 シンの見えない位置から軽いジャブ。威力はない。しかし目潰しには十分。次に来る攻撃に備えようと、シンは両腕で顔をガードしようとして──胸の前で腕をクロスさせた。

 その前にすでに、リィの掌底が鳩尾を捉えていたが。

「ぐっ……!」

 シンは芝生の上を滑るように転がっていった。

「く、くそ、読み違えた……!」

「……それでも合わせようとするんだから、凄いよね」

 はあ、と息をつくリィの頬を、幾筋もの汗が伝っていく。シンと戦うと疲れる。物凄く集中力がいるのだ。

 そしてシンも汗だくだ。運動量もさることながら、やはり精神力を削られていた。