シンの寝覚めはとても良い。

 早朝5時にはパチっと目を覚まし、隣の部屋で寝ている寝起きの悪い妹を起こし、一緒に庭へ出る。

 橘家が双子のためにつけてくれた専属メイドたちにラジオ体操の曲を流してもらい、みんなでほのぼのと準備運動をした後、メイドたちに微笑ましそうに見守られながら十分に身体を伸ばし、腕立て伏せや腹筋などの筋力トレーニングを行い、2人で競うように庭の外周を全速力で駆け回った後、息が整う前に組手を始める。

 朝は大抵、無手でやり合う。

 剣と魔銃同士ではまだ決着がついたことはないが、無手となるとリィが優勢だった。

 今日こそは、とリィの動きを良く見る。

 リィは見た目通りの、ふわふわした捉えどころのない動きをする。それでも僅かな体重移動、筋肉の動き、視線の動き、それらすべてを読み取って動けば、想像を超えた動きにもついていけなくはない。

 速さでは劣っていない。力も劣ってない。リィの動きさえ把握出来れば、逆転することも十分可能。

 だが。


 だん、と地面に叩きつけられる。

 繰り出した拳を捉えられ、そのまま身体をひっくり返されてしまった。

「く……まだまだあっ!」

 寝転んだ状態から足を振り上げると、リィはふわりと軽い動作で後ろに退いた。素早く身を起こしたシンは、直様リィを追いすがり、予備動作なしの速いパンチを繰り出す。

 それをリィは軽やかに避ける。両腕をぶらんと下げた状態で、ふわふわとハニーブラウンの髪を弾ませながら、踊るようにくるくると回る。

 傍から見ればふざけているようにも見える動きだ。だが遊んでいるわけではない。リィも真剣だった。