今も水色の髪を思い出して、荒波打ち付ける断崖絶壁にちょっと痛みを感じた。

 そうしたら。

 突然、衝撃的な事実に気付いた。

「な、なんだ、どうした」

 グラスを持ったまま目を見開き、動かなくなった私にシンが少し慌てている。

「……そっか、そうだったんだ……」

 私はひとり、納得する。

 さっきのシンの台詞が、水色の髪の師匠の真実に気づかせてくれた。

 ヴァンは。

 ヴァンは……断崖絶壁愛好者!

 その事実に雷に打たれたような衝撃を受けた。彼の奥様のセレナさんも、そして恐らく、彼が生涯想いを捨てることはないであろう──私と同じ顔をした人も。立派な……断崖絶壁だ。

「……んふふふー」

 少し嬉しくなって、もう一杯牛乳を飲んだ。

 断崖絶壁でも好きになってくれる人はいる。しかも私の尊敬する──ちょっと、好きだった人まで味方だ。シンの言う通りだ。

「なんだよ」

 訝しげに私を見ているシン。

 ……そう言えば、シンは?

「シンは、大きいのと、小さいのと、どっちが好きなの?」

「はあ?」

 シンは眉を潜めた後、牛乳を飲みながら真面目に考え出した。

「そうだなー、大きい方が見てて楽しいけど……でも抱きしめたときにこう……隙間が埋まらない気がする。小さいと、ぴったりくっつける……? うーん、でも……」

 ぶつぶつと呟いていたシンは、答えが出たのかぱあっと顔を明るくした。

「うん、俺は触り心地が良ければどっちでもいいや!」

 爽やかなレモンの香り弾ける、いい笑顔だった。

 ……シンは純真。

 純真ゆえに、邪な心が迸っている……眩しいほどに。そんな風に感じた回答だった。