この部屋唯一の出口である黒石で出来た扉の前に立つと、音もなく左右に割れた。いわゆる自動ドアだ。

 このミルトゥワでは各国政府が管轄する公共機関と、世界平和維持機関ラルカンシェル(旧魔族討伐専門機関ギルド)でしか採用していなかった技術だ。

 ミルトゥワはまだ開かれて間もない発展途上の星。

 原始的と言ってもいいレベルの文明しか持たなかったこの星は、60年前に他星より侵略を受けたが、そのときは皇族と精霊士の活躍により事なきを得た。

 その後交わされた平和条約により、星を開くことになったミルトゥワは、皇都に宇宙港を創リ、少しずつ他の惑星と交流し、文明を受け入れていくことにした。

 人々が違和感を感じないように、少しずつ。

 まずは通信ネットワーク技術をギルドに取り入れた。速やかな情報伝達が最も大事だと先の皇帝──その頃から皇帝は民衆に『惑星王』と呼ばれ始めた──が判断したのだ。

 通信機から出る電波が自然や精霊に害を及ぼさないか、何年もかけてテストして、そうして公共機関にも取り入れるようになった。民間に取り入れられるのはこれからになるだろう。

 この惑星の資源で作れるものに限定し、なおかつ人々にとって本当に必要なものだけを取り入れる。

 自然に害を及ぼすようなものは徹底的に排除する。

 その結果、公共機関(教育機関含む)はパソコンやタブレットのような最先端技術が展開されているのに対し、主な移動手段は乗合馬車だったりする、ちぐはぐな世界となった。

 他の星をいくつも旅してきたシンにとって、この星のちぐはぐさは面白い。