「先生、それは愛だと思います。」完



〝誠が両親に反抗すればするほど、心美ちゃんに跳ね返ってるんだよ……?〟。

美里の言葉が、鋭いナイフのように心に突き刺さった。
俺は知っていた。俺が反抗すればするほど、心美は父に自由を抑圧されていることを。

兄みたいになるな、お前だけはああなるなよ、変な影響を受けないようにあまり兄とは一緒に過ごすな、常につつましくいろ、聞き分けのいい子でいろ。

俺が反抗した分だけ、心美の心は父の言葉によって縛られていった。
俺のせいで、心美の笑顔は消えたんだ。

「転校しよう……心美。俺が、親父に言ってやるから。大丈夫だから」
誰かに転ばされたのだろうか……血が出ている膝を見て、俺は安心させるように呟いた。
心美は、最初体を強張らせていたが、俺の言葉に安心したのか、大きな声で泣き出した。

見て見ぬふりをして、ごめんな、心美。
無責任な、最低な兄でごめんな、心美。

こんなに小さな妹を傷つけていた自分に、それに今まで気付かなかった自分に、死んでしまいたいくらい嫌気がさした。

「心美、誰にいじめられたんだ……?」
恐る恐る問いかけると、心美は泣きながら必死に口を開いた。
「誠君のこと、好きだっていう中学の先輩に、突き飛ばされたの……っ」
「え……」
「何度も住所を聞かれて、でも誠君には彼女がいるから、無視してたら後ろからっ……」
心美は、俺を守るために傷ついたのか? そんな心美を俺は今まで無視し続けていたのか?
その事実に絶句してしまい、俺は心美を抱きしめる以外慰める方法が見つからなかった。
それから、擦りきれそうな声で謝った。