「先生、それは愛だと思います。」完


「やっぱり、国立かな……」
「でも、とくに語学に強いのはG大だろ」
「そうだけど、やっぱりあんまり遠くには行けないし……」

美里の家は父子家庭で、弟はまだ小学生。
弟をずっと一人にするわけにもいかないから、目指していた私立の大学をやめて、県内の国立大を受けることに決めたらしい。
家族愛が薄い俺には、全く理解できないことだったから、それに関する相談には全くのれなかった。

家族のせいで自分の未来が捻じ曲げられるなんて、そんなこと絶対に許せない。

他人では到底分からない辛さや、難しい出来事、どうにもならないことがそれぞれの家庭にはあるのに、反骨精神の塊でまだ子供だった俺には、美里の判断が間違っているように感じた。


「ただいま」
「誠、この間の模試の結果はどうだったんだ」
お前の浮気調査の結果は完全に黒だったけどな。
心の中でそう吐き捨てながら、俺は父親を無視して家に上がった。
家の中は、まるで見知らぬ他人の家のように居心地が悪い。
血が通っている人間しかいないはずなのに、皆それぞれの地雷を踏まないように、息を潜めて過ごしている。
まるで黒いビニール袋の中に家が包み込まれてるみたいに部屋全体が暗くて、息が苦しい。