「先生、それは愛だと思います。」完


新学期が始まり、クラスはすっかり受験モードの雰囲気になりつつあった。教室でバカみたいに騒ぐ男子はいなくなり、中には予備校に行くために早々に帰ってしまう子までいる。半分の子はまだ全国大会を控えて部活に勤しんでいるが、やはり受験勉強のことは気になっている様子だ。
私もユイコも進学を考えているので、そろそろ勉強に熱を入れなければならないのだが、ユイコは高橋先生を失ってすっかりやる気がなくなってしまったようだ。

「あー、高橋先生に告白すれば良かったなー!」
「いや、ユイコ彼氏いるよね!? 羽柴君めっちゃ青い顔してこっち見てるよ……」
「ねえ文ちゃん、今日先生に会いに青葉学園行こう!」
「えっ、先生に会いに!?」

動揺してしまい、私は思わず咳き込んでしまった。
そんな私を、ユイコは訝しげに見つめている。

……あの後、私と先生がどうなったかと言うと、どうにもなっていない。春休みは一度も会わなかったし、先生と連絡先すら交換していない。やっぱりあれは、先生のただの気まぐれだったのだ。

でも、それにしても性質が悪い気まぐれだった。こっちは真剣に告白したのに、あんな風に弄ぶなんて……。

「……どうしたの文ちゃん、先生に会いたくないの? あんなに若様ラブだったのに」
「えっ、いや、会いたいというか会いたくないというかえっと」
「編みすぎ、編みすぎっ」

私は編み針を高速で動かしながら、なんとか心を落ち着かせた。昔から、編み針をしているとなぜか心が落ち着くのだ。因みに今編んでいるのは、レース素材のコースターだ。
小さいから、15分もあれば簡単に編み終えてしまう。

「で、今度それは誰にあげるの?」
「あ、これは鈴木君に……この間教科書貸してもらったお礼に」
「重っ、やめなそんなん貰ったら逆に気遣うから!」
「ユイコにも実は今セーターを編んでいてね、この間休んだ時にノートを書いてもらったお礼に」
「いらんいらんいらん、大丈夫ありがとう!」