「先生、それは愛だと思います。」完


「先生は、結婚しているんですか?」
「……してるよって、言いたいところだけどね」

なんもないよ、と言って、先生は指輪のついていない手を私に見せた。

「……文ちゃん、よく俺と普通に話せるね。今日目が合った瞬間槍が飛んできてもおかしくない覚悟で来たんだけど」
「どんな覚悟でドア開けてるんですか……」
「だって俺、あんな別れ方したんだぞ」
「そうですね、あれは酷でしたね……」
正直に冷たくそう返すと、先生は黙って頭を下げた。何も言えない、というように。
「酷でしたけど、でも、今思い返すと先生は本当に自分のダメさを認めて私から離れたんだなってこと、わかります」
「ダメさ……言うようになったな」
「私じゃだめだって言ったけど、その時先生私と目を合わせられていなかったし」

たぶん、あの時、先生は、『俺じゃだめだ』って、心の中で言ってたんじゃないかな。
なんとなく、そんな気がする。思い返すと、あの時の先生の言葉は、全部自分に言い聞かせているようだった。

「……先生、私と別れてから誰かと付き合いましたか。現在進行形ですか」
「今それ聞くか」
「いいじゃないですか、もう時効ですよ」
「……付き合ってない、本当に」
「でも、言い寄られることはあったんじゃないですか。少しもそういう出来事がなかったわけじゃないですよね、そのルックスなんですし」
「文ちゃんなんか言葉が鋭くなったね」

鋭くもなりますよ、先生。
私はね、この四年間、あなたのことを思い出さない日など一日たりともありませんでしたよ。