「……じゃあ、今から簡単に文月さんに担当してもらう仕事の流れを説明するから」
文月さん、と呼ばれた瞬間、胸の内からずっと蓋をしていたはずの感情があふれ出してきて、私は固まってしまった。
それから、愚かなことに、自然と昔の呼び方で彼を呼んでしまった。
「はい、よろしくお願いします……先生」
その瞬間、彼の手の動きも止まり、初めてしっかりと目を合わせた。
時が止まった気がした。本当に。
先生が、今、私の目の前にいる。
あの、高橋誠先生が。
「こんな偶然、あるんだな……」
張り詰めた空気を溶かすように、先生が苦笑した。
白い会議室には、ブラインドから漏れた日の光が、まっすぐに差し込んでいる。
「採用者の名前を知ったとき、まさかとは思ったけど、本当に文ちゃんだとは」
「先生、教師、辞めたんですね……」
「うん、文ちゃんが卒業してから一年後に辞めた。俺の知り合いがこの会社にいて、ずっとこっちに来ないかって言われていたんだ。元々、教師はただの親への反発で始めた仕事だったからね」
「そうだったんですか……びっくりして声も出ないです……」
「出てるよ、大丈夫」
まさかこんな形で再開することになるとは、夢にも思っていなかった。
それは先生も同じなようで、さすがの彼も動揺しているのか、パスワード入力を三回も間違っていた。
「……元気だった?」
「はい、先生は」
「もう先生じゃないけどな」
「あ、そうですね……でも今も、教えてもらう立場にいることが、すごく不思議です」



