本気だよ、という低いトーンでの一言を聞いて、私はようやく正気になった。
正気になったら、段々と怒りがわいてきて、じわりじわりと涙がにじみ出てきた。
どうして? 先生、さっきまであんなに優しく微笑みかけてくれていたのに。
それも全部演技だったの? 大人だと、そんな演技容易くできてしまうの?
じゃあ、いったいいつから演技だった? いったいいつから私に無理に付き合っていた?
「大学に行ったら、出会いなんていくらでもあるし、いい男も沢山いるよ」
嫌だ。なにも聞きたくない。
「君は今ここで、こんな悪い男なんかに捕まってる場合じゃない」
なにも聞きたくない。そんな言葉、望んでないよ。
「今は分からないかもしれないけど、いつか絶対このとき別れていてよかったと思う日が来るよ」
「勝手に決めないでくださいっ」
私は、バッグを先生に投げつけて立ち上がった。
先生は、一度私を見上げてから、同じように静かに立ち上がった。
「勝手に……私の未来まで判断しないでくださいっ……」
大粒の涙がとめどなくあふれ出てきて、景色がゆがんで先生の顔がよく見えない。
「先生と付き合ったことを勝手に思い出にしようとしないでくださいっ……」
「……文ちゃん、俺は」
「先生が今、私のためを思ってふっているのか、本当に飽きたからふっているのか、そんなことはこの際どっちでもいいです。だけど、私の先生に対する気持ちまで、勝手に決めつけないでくださいっ……」
ぼとぼとと涙をこぼしても、先生は眉一つ動かさない。本当に、なにを言っても変わらないんだ。
もう、終わりなんだ。



