蚊の鳴くような声で謝ると、先生は私の頭をそっと撫でた。
「……俺こそごめん、俺に言えていない辛いこと、沢山あったんだろ」
そう言われた瞬間、今まで我慢してきたことがどっと胸に押し寄せて、泣きそうになってしまった。

……そうなんです、先生。
私ひとりで、辛かったんです。
悲しいことが沢山ありました。辛いことが山ほどありました。自分では解決できないことだらけでした。
でも、先生に言うことができませんでした。


だけど、ひとりで抱えるには、そろそろ限界でした。
どうして私だけがこんなに苦しまなきゃいけないの。
そんな風に思って、先生に八つ当たりをしてしまいました。

ごめんなさい、先生。

「ごめんなさい……せ、先生と付き合うことを決めた時点で、辛い思いをすることは、覚悟していなきゃいけないことだったのに……こんな風に今更傷ついたりして」
そう言うと、高橋先生はテーブルを挟んだ向こう側から、私の瞳をじっと見つめた。
それから、私の頬を優しく撫でて、愛おしそうに呟いたんだ。

「……本当に、甲斐甲斐しいね、文ちゃんは」
「え、かいがい……」
「健気で、一生懸命で、愛おしい、って意味合いで、言ったんだよ」