「俺は転校してきたばかりだし、お前があってたいじめとか、むしろお前のことすら、ぜーんぜんこれっぽっちもわかんねぇけど」



言いながら、狛は私のいる暗闇に足を踏み入れた。



彼の顔も影になって、どこか不気味に見える。



十分近くまで来て目が合うと、ふっと息を吐き出すかのように笑って、狛の足は止まった。



私からするとずっと見ていたわけだが、狛からすると初めて私を認識したことになるはずだ。



私を恐れるとか、ないのだろうか?



私の今の姿は血まみれでもなければ足がないわけでもないけれど、それでも幽霊であることに変わりはない。



それを初めて目の前にしたとき、人間は果たして今のように笑えるものだろうか。



ちょっと前までは無口で無表情だったのに、やけに饒舌で表情豊かだ。



さっきまで見ていた人は、別人だったのでは。



…それか、二重人格。



そう思ってしまうほどに、なんとも不気味だ。



幽霊にすら気味悪がられるなんて、本当に生きてるのかな、この人。




「ようは助けてほしかったんだろ?」



私の思考なんてお構いなしに、目の前の狛は、少し首をかしげて嘲笑うような顔で尋ねてくる。



―――助け?



そうね。あったら少しはマシだったかも。



こんな呪いもなかったかもしれない。



心の中で自嘲しながら、私は無表情で沈黙を貫く。




「だったら…」



私の無言を肯定ととったのか、狛は私に向かって手をのばした。



「俺が助けてやるよ。
だから俺の手を掴め、詩野」




―――詩野。



この人とは話したことがなくて…むしろ、生前ではあったことすらなかったけれど。



それでも、『佐久間』じゃなくて、『詩野』って呼んでくれるんだ…。



幼馴染みですら、名字で『佐久間』って呼ぶようになったくらいなのにね。



本当、笑っちゃう。