「あの、さっきから、どういう意味なんですか?」
「悪いことは言わないから、引き返しなさい。あなたはまだここに来るべきじゃないです」
「あ、で、でも。私ここがどこだかわからなくて。帰るにも鞄もないからお金がなくて・・・」
帰りたくても帰れないのよ!
帰れ帰れと言われても。
ここがどこだかわからないから、右に行けばいいのか左に行けばいいのか。
サッパリなのだ。
「あなた、記憶がないんですか?」
「え・・・?記憶?ありますよ。自分の名前だって言えるし、住所だって。忘れていることなんて、なにもないです」
「記憶があれば、帰り道は覚えているはずなんですが・・・」
「そ、そんな事言ったって・・・。気が付いたらここにいて・・・」
ウソは言っていない。
記憶だってあるけど、なんでここにいるのかはわからない。
自分が誰かはわかるけど、帰り道なんてわからない。
「浅葱」
「うん。えと、君名前は?ああ、僕は篠ノ井浅葱(しののいあさぎ)。こっちは、暁(あかつき)。この書店の店主です」
優しいまなざしで浅葱が言う。
私はコクリと頷いた。


