「ええ。徳永さんの、お孫さんです」
「そうか・・・。そうか・・・。あいつも、親になったか」
「息子さんは今年37歳です。もう、7年経っているんです」
7年。
そんなに長い間、徳永さんは心残りを捨てきれず、それでも、会うこともできずに想いだけを積み重ねてきたんだ。
「もう少し近づきましょう。声も聞こえるはずです」
浅葱に促され、私たちはそっと近づいた。
息子さんである信一さんは徳永さんの仏壇の前に座った。
仏壇に飾られてる写真には、目の前にいる徳永さんが映ってる。
こういうのを見ると、気づかされる。
この人はもう死んでいるんだ、と。
「父さん。俺、親父になったよ」
信一さんは、感慨深そうに言った。
信一さんの瞳は、徳永さんに似ていた。
頑固そうな雰囲気を消した、優しい瞳だ。
「親になって初めて、あの時の倒産の気持ちが少しわかる気がする」
「馬鹿野郎」
信一さんの言葉に、徳永さんは涙ぐむ。