私は慌てて立ち上がり、謝罪する。
 歩「申し訳ありませぬ。拙者の前方不注意にございまする」
女だと悟られないよう、この時代の侍口調で言ってみる。現代ではよく家族と一緒にテレビの大河ドラマとか時代劇を観てたから、この手は結構得意。声も稽古中は、一オクターブ低く出してるし。普段はソプラノだから、今はテノール位?
 それにしても、一体どこの誰?そんな疑問は、その人の手が握っている物で気付いた。それは。
 歩「鉄扇・・・もしや、局長筆頭の芹沢先生であらせられますか?」
 ?・芹「そうじゃが・・・お主、この辺りでは見ない顔だのぅ。新入りか?」
 歩「はっ。ご挨拶が遅れ、真に申し訳ございません。拙者は昨日、土方副長より副長助勤と一番組副組長の任を承った、渡辺歩夢と申しまする。以後、お見知りおきを」
一礼し、そっと顔色を伺う。
 芹「そうか、土方が・・・さぞや腕も立つのであろうな。期待しておるぞ」
 どうやら女だと、悟られてないらしい。その事に内心でホッとする。
 歩「有り難き幸せ。では拙者、この後より任務がありまする由、これにて」
 芹「うむ。しかと励めよ」
 歩「ははッ」
再度、一礼してから道場を後にする。部屋に着くなり障子を閉め、壁にもたれて盛大な溜め息を吐く。
 歩「ほんの少し話しただけなのに、何なの?この疲労感」
 すると、机の上に見慣れない物体が置かれているのに気付いた。
 歩「何これ?籠か箱?」
とりあえず、中身を確認しよう。でないと、扱いに困る。しかし、何故に大小二つ?
 紐で縛れているソレを開け、中身を確認する。中から出てきたのは・・・
 歩「あっ、隊服一式と・・・鎧?」
そう。出てきたのは、あの浅葱色の羽織と鉢金・そして鎧一式だった。しかも、羽織は三着もある。