[土方side]
 今日、巡察から帰って来た総司と斎藤が異国の着物を着た奴を連れて来た。長州の間者かと尋ねたら、常陸生まれの江戸育ち。それも未来から来たという。
 なら証拠を出せと命じてみたら、奴・・・渡辺は手のひら大の豆本とすまほとか言う不思議な箱形のカラクリ、未来の甘味を総司と近藤さんに食わせ、あろうことか俺の俳句を暗唱し始めた。俺は、渡辺の言う事を信じる事にしたが、ここにいる以上は何か条件を課さなければと思った。
 すると総司がとんでもない事実を話し始めた。なんと渡辺は、抜き身の刀に持った浪士4人を相手に物怖じしないどころか、竹刀で瞬殺して追い返したと言うのだ。一体、こんな細っこい身体のどこにそんな力があるってんだ?でも、そんなに強いんなら隊士に摩るのもいいかと思ったが、衝撃の事実が明らかになった。女かよ!!


 渡辺は近藤さんの勧めで、隊士になることを望んだ。そこで、早速入隊試験を行うことにした。渡辺に胴着へ着替えさせ、総司に案内を頼んだ俺は、近藤さん・山南さん・斎藤を連れて道場へ先に向かった。
 そして、総司と一緒に胴着に着替えた渡辺の相手に、総司が率いる一番組の隊士を指名して試合が始まる直前、周りの隊士が渡辺を冷やかしてきた。その時の渡辺の黒い笑み程、恐ろしいものはなかった。顔は笑ってんのに、目が笑ってねぇ。先程まで聞いていた声音も、年頃の少女らしい高い声から男顔負けの殺気を含んだ低い声に様変わりしていた。 鬼副長の渾名が聞いて呆れるぜ。