文久3年12 月。年の瀬も迫り始めたこの頃、新選組の屯所の道場では元気に打ち合う音が響いていた。
 ガンッ、カンッ!
 歩「さすが、新選組きっての槍使いですね」
 左「そっちこそ、俺の槍さばきをいなすなんざ、さすがだな」
 同じ長物使いという事で、私と左之さんは槍対薙刀で試合中。
 結局、リーチの広さを活かした左之さんの槍さばきについていけなくなった私の負けとなった。
 歩「槍使い対策が、今後の課題かぁ~」
 刀が相手だったら敵なしだから、今後は槍とか鉄砲を想定した鍛練をしよう。床に大の字に伸びながら、ふとそんな事を考える。
 左「どうした歩。ここ最近、心ここに在らず状態になってるぞ?」
 歩「あはは。やっぱり左之さんにはお見通しか」
 左之さんの言う通り、妙な胸騒ぎがここ数日、ずっと続いているのだ。その為、ボーッと考え込んだり鍛練に勤しんだりして、気を紛らわしていた。
 歩「・・・さて、土方さんに頼まれてた公文書の代筆でも、片付けるかな」
 左「そうか。無理はするなよ?」
 歩「分かってますよ。土方さんじゃあるまいし」






 左之さんと道場で別れ、自室に戻って着替えを済ませた私は、文机に積まれた公文書を捌いていた。
 歩「これで、墨が乾けば終わり・・・っと」
 公文書を書き終わり、文机に並べて墨が乾くのを待ちながら肩をコキコキと回していると、障子の向こうから二人分の気配が伝わってきた。