「いやー!美味しかったー!」

「ほ、本当に美味かった…」


結局テーブルを3人で囲んでの夕食となったのだが、彼の作るハンバーグはファミレスやレストランで食べるレベルを上回っていた。焼き加減といい、肉汁といい、かけるソースといい、とても美味しく、美味しい以外の言葉が見つからなかった。


「そうか。それならばよかった」


ぜひ主夫になってもらいたいと思ってしまうほど、彼の料理はどれも絶品だった。素材はすべてスーパーで手に入れたものだというのに、父さんや母さんが作るそれとはまったく違うものだった。


「柚樹さんは料理の学校か何かに通っているんですか?」


食後のデザートだと出された手作りプリンに全身がとろけそうになったところを、気合で保って質問をした。それにしてもこのプリン美味しすぎる。隣では目をハートにしてプリンを頬張っている可愛すぎる彼がいた。


「学校には通っていない。結宇がとても食いしん坊でな、作ってあげていたらどんどん上達したんだ。」

「結宇さんのためですか。俺も柚樹さんみたいな兄ちゃん欲しかったな」

「嬉しいことを言ってくれるな」


そう言うと、彼は微笑んだ。…微笑んだ?


「柚が笑った…」

「柚樹さんも笑うんですね…」

「おい、お前らは私をなんだと思っている」


その問いかけに対して、「料理上手の無表情」とふたり口を合わせて言った。彼は食べかけのプリンをふたりから没収すると、それを勢いよく腹におさめようとした。


「私のプリーン!!!!」

「土下座でもなんでもするんで許してください!!!!」


慌てて彼に泣きつくと、その光景があまりにもおかしかったようで、無愛想な彼は今度は声を出して笑った。


「お、お前ら、おもしろすぎ、あはは!」


泣きついたふたりも彼につられて笑った。
こんな夕食は久々だ。いつもひとりで買ってきた惣菜をおかずにして済ましていた。しかし今日は3人で手作りのハンバーグ、手作りのプリンを食べ、冗談を言って楽しんでいる。

今日は散々な日だと思ったけど、案外悪くないかもしれない。

3人で笑い合いながらそんなことを思った。いつまでもこんな日が続けばいいとも思った。


「…もうひとりには戻りたくないな」

「ん?なんか言った?」

「どうかしたのか?」


ふたりが心配そうな表情でこちらを見た。俯いていた顔をあげると笑顔を向けた。


「楽しいなって思っただけ」


するとそのタイミングで家のチャイムが鳴った。赤い目を丸くした結宇さんはなぜか隠れて待機し始めた。それがおもしろくてそのままにして、外をうつしている画面を見た。そこには幼なじみがいた。しかし様子が変だ。俯きがちで手には何か持っている。銀髪の兄弟にリビングから出ないでと伝えると玄関へ向かった。
鍵とチェーンを外し、ドアを開けた。