「よかったらお名前教えてください!」
「えっと、蒼野孝汰です。あなたは?」
一瞬、間を置いてから彼女は答えた。
「私は菅原結宇です」
彼女は俯き気味に答えたがすぐに顔を上げた。
「菅原さんか…あなたはなぜここに?というかいくつなんです?」
「え!?えと…さ、最近こっちに引っ越してきて、この公園いいなと思ってなんとなくここにいたんです!」
なんだか胡散臭い感じはしたが、敢えて問いただしはせずに話を続けた。
「へぇー。で、いくつなんです?」
「えと…18です」
「うわ、年上じゃん。俺高2ですよ、高3ですか?」
質問をすると再び俯きがちになり、心なしか声も小さくなって答えた。
「だ、大学1年です」
あー、そういうことか。この人わかっててこんな話し方してたのか。まあこんな時間に繋ぎ姿でここにいる時点で高校生って感じはしないけど。
なんだな少しイラついたので強めの口調で話した。
「…なんで敬語で話してんですか。初めから俺のが年下ってわかってたんじゃ」
「そ、そういう性格なんですよーあははー」
ため息をひとつつき、自転車を立てながら言った。
「もう敬語しなくていいですからね。菅原さん、今日学校は?」
「休講で暇してるんです。…ってそんな顔して見ないで!わかったよ!敬語やめるから!そ、その代わり蒼野くんも敬語なしね」
「なんだよそれ…てかこうたでいいですよ」
「え?」
「俺のこと、こうたでいいって言ってんの」
「あ、はい!じゃ、じゃあ私もゆうでいいよ」
「はいよ。それじゃ結宇さん、俺これから学校なんで。また放課後ここで会いましょう」
「あ、そうか…ってもう9時半になるよ!?」
「こんなの日常茶飯事だから結宇さんの気にすることじゃないよ。それじゃ、また」
強くペダルを踏むと、公園を後にした。結宇さんが何か言った気もするがそんなことは気にせずに学校へ向かった。
今日はいい日になりそうだ。
珍しく学校へ向かう足が軽くなっていた。放課後にまたあの人に会えると思うだけで学校に行くことが苦ではなかった。しかし、すぐにその気持ちは潰された。
なぜか?愚問だ。学校について早々嫌なものを目にした。
「孝汰、なんで電話にでないのよ」
教室前の廊下で仁王立ちをした幼なじみがこちらを睨みつけてきた。
「…なあ大杉、俺いつも構うなって言ってんだろ」
「私が行かなきゃあんたいつまでも寝てるでしょ!?」
「俺は自分の欲求にまっすぐなだけだ」
「あんたねぇ…とにかく!おじさんが帰ってくるまでは私があんたの監視役兼お世話係なんだか…ってどこいくのよ!」
騒ぐ幼なじみを無視して教室へ入ると、すぐに自分の席についた。時刻は9時40分。休み時間の真っ最中だった。
前の席の男子がこちらを向いて話しかけてきた。
「蒼野、あいつ大杉美和だろ?結構人気あるけどお前ら付き合いだしたのか?」
「は?んなわけねえだろ。だれがあんなうるせえやつ好きになるかよ」
「騒がしいけど見た目可愛いしいいじゃねえか。世話も焼いてくれて」
「それはお前が大杉に付きまとわれたことねえから言えるんだよ」
「そうか?」
「そうだよ」
視界の隅に幼なじみが見えたが、タイミングよく予鈴がなった。そのおかげか、諦めて自分のクラスへ戻っていったようだ。
ケータイを開くと着信20件というとんでもない数字が目に入った。恐ろしすぎて言葉が出ない。すぐにそれを消し、メッセージも一緒に消した。またメッセージを受信したようだが見ることはしなかった。
「あ、蒼野くん」
突然話しかけられて一瞬誰かわからなかったが、声の主は隣の席の女子だったようだ。
えーっと…名前が出てこない。誰だったか。
「…何?」
めんどくさくなって適当な返事をすると体をビクッとさせて女子は下を向きながらメモを渡してきた。
「あの、これ…」
すぐにそれを開いた。メモには『放課後話があるので残っててもらえませんか?』と丸文字で書かれていた。そのメモに『無理』とだけ書いてメモを返すと女子は驚いた表情でこちらを見た。しかしそんなことは気にせずに授業を受けた。
授業の後、何故か隣の席では女子が群がっており、たまにこちらを見てはこんなやつやめたほうがいいんだよ!などと言っていた。
全くもって意味がわからない。
そうして一日が過ぎていった。


