『スーパームーンの大火』と銘打った記事が、地方新聞のトップを飾っていた。

海上火災から一夜明けた翌朝には、早くも記事が出来上がっている。その内容を読む限り、火災を起こした船舶は、国外の密漁船で、周囲には同業者の船も多く集まっており、仕掛け網を巻き上げている最中に、モーターからの出火に気づいた。幸いなことに、船舶には死傷者もなく全員が無事に救助され、持ち主は自分の船が無くなった事よりも、密漁に対する言い訳を並べたてるのが忙しかったらしい。

……その火事の一部始終を見ていた私は、事故が無事解決したことよりも、最中に交わした波留とのキスが忘れられずに悩んでいた。

大した事じゃない。今時、キスの一つや二つ、子供だって平気でする。


(やけど……私は航以外の人とするのは初めてやから……)


変な言い訳をしたところで、やってしまった事が消される訳じゃない。
悩んでいるのは自分だけで、きっと、もう波留は忘れている。
向こうからしかけてきたのに…と思うこと自体が空しくなる。

あんな場所で男性と2人きりになって、何もないことの方がおかしい。
むしろあの場面で、キスだけで済んだことに感謝するべきなのだ。

ーー明らかに、波留が自制してくれた。…そうとしか、考えられなかった……。


(間違いが起こらんで良かったんよ……。波留が好きなのは、澄良なんやから……)