淋しがりやの心が泣いた

「すみません。私、帰ります」

「ちょっと待って、南ちゃん」

 軽く頭を下げて椅子から立ち上がると、マスターが慌てて作業の手を止めた。

「央介、今日ここに来るかもしれないから。俺から電話してみるよ」

「いえ、大丈夫です。また来ますね」

 央介くんとは、もう会うこともないのだ。
 そう思うと悲しさがぐっと込み上げてきたけれど、マスターの手前なんとか笑顔を保った。

 お店を出ると、なんとも言えない喪失感が押し寄せてきて、途端に目頭が熱くなる。

 ――― 淋しい

 央介くんの笑顔が脳裏に浮かんだ。
 いつも変わらないあの笑顔を、心のよりどころを、私は失くしたみたい。

 いつでも会えると思っていた。
 あのバーに立ち寄れば、「いらっしゃい」って、彼が笑って迎えてくれていたから。