淋しがりやの心が泣いた

 央介くんは一昨日、このバーを辞めたらしい。
 私はなにも聞かされていないけれど、マスターの口ぶりだと、今年いっぱいで辞めることは前から決まっていたような感じがした。
 それが少し早まっただけなのだろうか。

「あの、研修って?」

 私が目を丸くすると、マスターは忙しそうに手を動かしながら苦笑いをした。

「央介、それも言ってなかったんだね。アイツね、就職が決まったんだ」

「就職?!」

「知り合いに紹介してもらったとかで、中途採用の試験受けてね。で、採用が決まったからうちの店での仕事は年内いっぱいってことになってた。だけどその会社が早々に研修に来いって言ってきたらしい。年末なんだから、研修なんて年始からにすればいいのにね」

 知らなかった。央介くんが転職しようとしていたなんて。
 中途採用の試験を受けていたことも。

 だってなにも言ってくれなかったから。
 伝えてくれなきゃ、私が知るわけない。