「これね、まだお客さんには出してないんだよ。来月あたりから正式にメニューに加えようかとは思ってるんだけど……」

 そう言って遠慮気味に出されたキーマカレートーストからは、とても良い香りがした。
 ひと口かじると、口の中になんとも言えない風味が広がる。
 本当においしくて、心に染み入ってきて、なぜだか涙が出そうになってくる。

「味、どう?」

「……おいしいです」

「そっか。来月からメニューに掲載決定かな……って、南ちゃん?!  俺、泣かせるつもりで作ったわけじゃないよ?」

 私の目の淵に涙がどんどん溜まり、その様子に気づいたマスターが突如あわて始めた。 
 おかしい。なんで涙が出るんだろう……
 あんな最低な男のことで泣くのは変だ。泣くもんか。

「アイツ……早く帰って来いよ」

 マスターがボソリとつぶやいた言葉を、私は鋭くキャッチする。