私が教室に戻った時

ちょうど教室のベランダにいた佐伯くんが

私に手を振って、そのまま手招きしていた。

佐伯くんは、少し長めの茶髪の前髪を

後ろに流してその髪を耳にかけている。

そして左の耳には黒い石のピアスをして

見た目が、とにかく軽く見える。

そしていつも

男女問わず、いつも色んな人と一緒にいて

楽しそうだ。

そうかと思えば、こうやって一人でいて

何にも縛られずに、自由な人だと

思っていた。

私、本当は…少し苦手だったけど

同じクラスになって話をして

何で泰詩が友達になったのか

少しわかった気がする。

佐伯くんはいつもは言ってる事が軽くて

いいかげんな感じがするけど

ふとした瞬間に彼はとても

言うことが鋭くてドキッとさせられる。

それは多分…佐伯くんが

周りをよく見ていて

自分以外の人の気持ちにも

本当に敏感だから。

頭の回転も早くて…鈍感な私と大違い。

私が佐伯くんの所に行くと

佐伯くんはいつもの様に明るく少し軽い

口調で私に話しかけた。

「あっ、真凛ちゃん

なんか今日は大変だったねー!

頭から水浴びしたり急に彼氏がキレたり…。

で…渋谷と何で揉めてたの?」

「……。」

「言えない?」

「…うん、ごめんなさいっ…。」

「謝んなくていいんだよ。」

佐伯くんが優しく笑った。

「それより泰詩は一緒じゃないの?」

「あっ、うん…。」

「泰詩さぁ、真凛ちゃんが頭から水浴びした

プールと反対方向にいたのにさぁ…

急に走り出して

真凛ちゃんの所に行ったんだよ?」

「えっ…そうなんだ。」

「そうだよ~

俺が泰詩に真凛ちゃん頭から水浴びして

注目されてるよって

教えるか教えないかで消えたもん。」

泰詩…。

「しかも泰詩、渋谷に

殴られて痛そうだったねー。」

「うん…」

「でさぁ~その後さぁ…泰詩なんか

階段を三段とばしで走ってたけど…。

声かけたのに無視されちゃったっ。

で、何があったの~?」

佐伯くんは私の事ジッと見てきた。

「あっ…あのね…」

私って本当に嫌なやつ…。

いつも泰詩に

助けてもらってばっかりで…

それなのに泰詩を怒ってしまった……。

私…泰詩にお礼も言ってない。

泰詩は渋谷くんを必死に

追いかけてくれたのに…。

自分の事ばっかり…

最低…。

私が自己嫌悪に陥ってボーッとしていると

「どうした?真凛ちゃん、大丈夫?」

「うん…大丈夫。」

「で、渋谷…帰っちゃったんだ?」

佐伯くんがベランダから校庭を見下ろした。

「えっ、うん…よくわかったね?

私は話をしたかったんだけど…。」

私が不思議そうに佐伯くんを見ると

佐伯くんは少し笑っていた。

「なんとなくね…。

そっかー、でも今は

渋谷話したくないんじゃない?

カッコ悪い所見せちゃったし…。」

「そんなこと…悪いのは私だから。」

「悪いのは真凛ちゃんでも

それを許せない男の小ささを

見せちゃったのが

恥ずかしいもんなんだよ?」

「でも…。」

「男ってけっこうそういう所

弱いもんなんだよ。」

佐伯くんはハハッて笑いながら

私を見た。

「私…だめだめだ。」

「泰詩に謝らないと…。

泰詩きっと私の事、呆れてるかも。」

「どうして?」

「だって私はいつも泰詩に頼ってばっかで

泰詩に迷惑かけて、それなのに……。」

それなのに…傷つけてばかり。

「でもさぁ、

そんなの関係なく

いつも助けてくれるのが泰詩じゃない?

泰詩はさぁ…真凛ちゃんに何されても

困ってたら絶対助けちゃうんだよ。」

「え…そんな…っ。」

「うん、助けちゃうよきっと…。」

佐伯くんはケラケラ笑って私を覗き込む。

「…佐伯くん…っ。」

「だからさ…

あんまり意地悪しないでやってよ。」

「あっ…私…謝ってくるね。」

そう言って佐伯くんを見ると

佐伯くんは笑って頷きながら

ヒラヒラ手を振っていた。