「あっ、渋谷くん!」

渋谷くんを追いかけようとした時

私の腕を泰詩が掴んだ。

「行くな、今は一人にしてやれ。」

「えっ……うん。」

泰詩の顔を見ると少し赤く腫れていた。

「大丈夫?痛いでしょ…。

保健室行く?」

「これくらい平気だから心配すんな。」

泰詩の‘’心配すんな‘’は

昔からよく聞いた。

いつも私が困ってると

心配すんなって…。

泰詩も困ってるくせに

大丈夫ってふりして

いつも安心させようとしてくれた。

これは私の事を安心させるための嘘…。

でも、すごく優しい嘘…。

さっき、プールで私に初めて

助けるって言ってくれた。

今までずっとそんな事

私に言った事ないのに…。

不器用でそっけないあなた。

私はその不器用な優しさに

守られて助けられてたんだって…

気づいた…。

そして、やっとわかったの。

今まで…

私は泰詩以外に

心が弾む人はいなかったんだって事。

私は泰詩が好きだったんだって事。

不器用だけどいつもそうやって

そっと守ってくれた泰詩。

泰詩の気持ちが

私には…

嬉しくてたまらなかったよ。

「泰詩、ありがとう。」

泰詩を見ていつものように笑った。

私の感謝の気持ち…。

たくさんのありがとうの気持ち。

私が笑うと泰詩はいつも優しく笑うから。

私は泰詩の笑った顔が好きだから…。

いつも笑ってほしくて

私は笑っていたんだよ…。

この気持ちは

蒼太くんのとも渋谷くんのとも違うの。

泰詩への泰詩だけの特別な気持ち…。

渋谷くん、ごめんなさい…。

私は、泰詩が好きです。

だから…

あなたの好きには応えられません。

ちゃんと伝えるから…。

あなたとちゃんと向き合うから…。

逃げずに言うから…。

私の話を聞いてくれますか?

「渋谷くん…。」

私はポツリと呟いた。

「気になる?」

「えっ?」

「渋谷の事…気になるの?」

泰詩が真剣な顔で私を見ている。

「うん…だって…。」

あんな風になったの私のせいだから…。

「そっか…。」

泰詩は少し元気なく笑うと

「それより着替えてこいよ!

風邪引くぞ!」

泰詩が私の肩をポンと叩いた。

「うん…。」

私が泰詩を見上げると

泰詩と目が合う。

「真凛…今度さぁ

俺の話を聞いてほしい。」

泰詩がまた真剣な顔になっていた。

「話?」

「うん…大事な話。」

「うん…。」

大事な話って何だろう…。

この間のいい感じの子の事じゃないよね?

私は、少し不安になった。