僕は、君が好きです。

プシュー

ドアが開き先に降りると泰詩も私の後から

降りたのがわかった。

さよなら…とは言えなかった…。

バイバイって言うのが精一杯。

だって、さよならって…

永遠にお別れみたいで…

それを言ったら…

きっと悲しくて歩けなくなる…。

バイバイ…

もう振り返らない…このまま黙って行こう。

私はそのまま歩き出したその瞬間…

グイッ

腕を急に後ろから掴まれてた。

振り返ると胸が苦しくなるくらい

切ない瞳をした泰詩が私を

見つめていた。

「…泰詩?」

「…バカッ…本当にバカ…」

「え?」

「何だよ…何なんだよ…さっきから

言いたいこと自分だけ言って

それで…

俺の前からいなくなるつもりかよ?

そんなんで…終わりなのかよ?」

「そ…そんなつもりじゃっ…」

「なぁ…頑張るって何だよ?

……大丈夫って何だよ?

そんな簡単に…

バカじゃねーの…。

バイバイって…軽いんだよっ!」

泰詩…

簡単でも軽くもないよ…?

「俺は…

ただ…ずっと真凛を守りたくて…

ずっと…ずっとそれだけ…で…。」

わかってる…

私のために無理してでも

守ろうとしてくれたんだよね?

ただ…それだけ…なんだよね。

その言葉が大好きだった。

今、この瞬間さえ…

また胸が締め付けられてる。

「…今…」

泰詩が少し言い澱んで私を見た。

「…え?」

私が見上げると

泰詩は私の顔を真っ直ぐ見つめている。

「もし、今俺が…好きって言ったら?」

そう言って泰詩は私の左腕を掴み

引っ張って歩きだした。

「…え…泰詩…何?」

私が腕に力を入れて抵抗すると

さらに強くその腕を掴んで

グイッとまた引き寄せた。

「…泰詩っ…皆に見られてるよ…っ。」

そんな私の声を無視するかのように

泰詩はホーム階段下の端の方に

連れて行く。

「ねぇ…どうしたの?…泰詩…?」

私の言葉で立ち止まると

泰詩は私の顔をじっと見下ろしながら

私の頬にそっと触れた。

えっ……何…っ?

ドキンドキン…

泰詩の長い指が私の顔に触れて

その部分だけ急に熱くなっていく。

泰詩がこんな近いのはいつぶりだろう…

そんな事を考えながら

さっきと同じように泰詩の長い睫毛を

じっと見つめていた。

するとその綺麗な瞳が私を見る。

ドキン…ッッ…急に胸の鼓動が高鳴る。

「顔、冷たい…

昨日も顔…寒そうだったな…。

ずっと、待ってたのに…

冷たくして、突き放してごめんな…。」

「……えっ…」

泰詩の優しい言葉に思わず

泣きそうになって顔を反らした。

グイッ

泰詩は私の顔を掴んで上を向かせる。

「…うっ泰詩…っ。」

「…俺は昔から

真凛と一緒なら何でもよかった…。

今までお前にしてきた事は…

俺がそうしたくてやってただけ…。

だから…

感謝なんかしなくていいんだ…。

俺がただずっと隣で…

真凛を見ていたかったんだ。

例え、真凛が忘れても……

俺は、昔も今もこの先もずっと…

ずっと真凛を忘れないよ…。」

そう言うと泰詩は私の右耳に手をかけると

左の腕を掴んで引き寄せた。

「…え…っ?」

泰詩の顔が私の顔に近づいてくる。

そう思っているうちに泰詩の鼻が私の

鼻に触れた。

これって…もしかして…

泰詩の唇が私の唇に近づく。

私はギュッっと瞼を閉じて身を硬くした。

ドキドキ…胸が今にも爆発しそうだった。

しばらくして…

泰詩の手が私の腕をゆっくり離した。

ふと…目を開けると

泰詩が私の顔をじっと見つめていた。

「…え…何…」

泰詩…?

泰詩の瞳はいつも真っ直ぐで綺麗で

澄んでいて…ずっと嘘だらけの私には

眩しかった。

泰詩は、私の頭をポンっと触ると

「…俺がさぁ……もっと前から

こんな風にできてたら…

もっと全然違ってたのかもな。」

そう言って泰詩は元気なく笑った。

その笑顔は、あまりに悲しくて…

私の胸が苦しくなる。

「泰詩…」

「ごめん…勝手な事して…

でも最後にもう一度だけ…

本当の気持ち伝えたかった。」

本当の気持ち…。

「……」

「いや…

やっぱ…確かめたかったの間違いかな。」

確かめたい…?

「これが本当に最後だから…

…確かめてもいい?

真凛は、俺の事…本当はどう思ってる?

俺は、好きだよ。

これからも、ずっと変わらない。」

泰詩は真っ直ぐ私を見ている。

こんなに真っ直ぐで純粋な人を

私はずっと振り回して、傷つけて…

嘘までつかせてしまった。

「…真凛…教えて…」

泰詩の苦しそうな声…

泰詩の顔をまともに見れない……。

………………

私が返事をできないま……

何本もの電車が駅に到着しては

また動き出す。

二人の間に重い空気が流れていた。

プシュー

また電車が到着してドアが開いた時

「…真凛?」

泰詩は、ずっとうつむいている

私の顔を覗き込んだ。

「…あの…」

泰詩が好き…そう言いたい。

言いたい……。

でも…それで本当にいいの?

いつも私の事ばかりの泰詩…

これからも…

きっと私の世話ばかりだ。

絵莉ちゃんと付き合ってるなんて

嘘までついて…守ろうとしてくれた。

でも、不器用なの知ってるんだから。

泰詩、ずっと自分に嘘ついているとね…

心が苦しくなるんだよ?

それでも…

きっとあなたは頑張って

私を守ろうとするんだろうね。

ずっとずっと…平気なふりして

私を守ろうとする…。

泰詩に私、何を伝えたらいいの…。

こんなに必死に私を助けてくれた

あなたに…私、何を返せるの?

…ダメだ、頭がぐちゃぐちゃ…。

焦れば焦るほど…

言葉がでてこなくなる。

「…あのね…」

"本当は…

私もずっとあなたが好きです。"

…そう言ったら泰詩は嬉しい?

本当に、喜んでくれる?

私たち、嘘ついて一緒にいていいの?

ずっと嘘をついていくのは…疲れない?

「…あの…」

私が話だそうとしたその瞬間

言葉を遮るかのように誰かの声がする。

「…仲原くんっ!」

絵莉ちゃんが手を振りながら近づいてくる。

その瞬間…

泰詩は私に背を向けて歩きだした。

「………泰詩」

私は、その一瞬の出来事についていけず

ただ黙って泰詩を見送る事しか

できなかった。

絵莉ちゃんと肩を並べて

駅の階段を上っていく泰詩…。

私がずっと言いたかった事は…

あなが好き…。

私もあなたの事を

忘れる事はできないよ…。

その瞬間…

私は右足を庇いながら走っていた。

必死に追いかけたんだ。