成長した私が、幼かった自分に負けてどうするの?

心臓が私を強く叩く。

熱い涙が一気に溢れかえる。

私は詩織の手から幼い自分を受け取り、そのまま飛び込むように抱きついた。

詩織のあたたかい背中に腕をぎゅっと回す。

乱れきっているけれど、それでも艶やかな髪に、私の涙の雫が伝う。

するとその瞬間、背中に小さな手のぬくもりを感じた。

それだけで、もう、溢れる想いが言葉となって流れ出す。

「ありがとう、詩織」

体を放せば忙しく笑顔が溢れていく。

青白い光の満ちた教室に、私たちの笑顔が弾けて煌めく。

「そろそろ、後夜祭だ。行ってこいよ、明日香」

私の背中を叩く康太、泣き笑いしながら強く頷く詩織。

私は古びたラブレターをきつく胸に抱いて、頷き返す。

「うん、行ってくる」

ふたりの笑顔を胸に私は床を蹴って、廊下へと飛び出した。

私は空を染めていく夜とともに走りだす。