静かになった。穴が開きそうなほどたくさんの目が僕を見ているけれど、悪い気分じゃない。
むしろ、すっきりしていた。ぼくは壊したのだ。ずっと嫌いだった、牢獄みたいなこの空間を破いたのだ。
すこし、誇らしくさえあった。
やがて、世界はゆっくり動きはじめた。
教室にいた生徒が音を聞いて窓から顔を出す。廊下はさっきの何倍もざわめいていた。だれかがぼくの手を見ながら、血が、とつぶやいたのだけが聞き取れて、視線を落とす。
ガラスで切れた細い傷から、血がたれていた。不思議と痛くはなかった。血ってこんなに赤かったっけ。
いちばん近くでぼくを見ていた教師は、はっと我に返ると、何語かわからない言葉をわめきながら、血が出ていない方のぼくの腕を掴んだ。
振り払うとわめき声はさらに大きくなったけど、もう全然怖くない。お腹の底から笑いたい衝動をぎゅっとこらえる。
きょろきょろと見回すと、何人かの教師が駆けつけてくるのが見えた。これ以上ないってくらい焦った顔をしていた。
息を切らせてぼくのもとにたどり着いた教師たちはみんな、どうしてこの子が、と青い顔をした。この子がこんな馬鹿なことするなんて、と。
たまらなくなって、さらにお腹に力を入れる。どうして、なんてわかんないよ。壊したかっただけだ。
自習をしてなさい、と女の教師がヒステリックに叫ぶ。耳がキンとなる声だ。野次馬は減らない。
ガタイのいい体育教師に肩を押されて、職員室に連れていかれる。もう振り払いはしなかった。
足を止めないまま、後ろを振り返る。
散らばったガラスの破片を、教師たちが掃除していた。ぼくを囲んでいた生徒たちは、みんなぼくの方を見ている。
ぼくはだれとも目を合わせずに、空を見た。
あいかわらず濁った色をした雲に覆われていて。
だけど、その隙間から一筋、白い光が指していた。
ぼくの割ったガラス窓が、ぼくが壊した牢獄の檻が、きれいな白い光に照らされていた。
すこし、笑った。



