みんな笑っていた。たった十分の休み時間でさえ、ようやく返してもらった自由をめいっぱい楽しもうと、笑っていた。

クラスから飛び出してはしゃぐやつもいた。そのせいか、教室よりもさらに暗い廊下も、嘘みたいに明るかった。


まあ、テストが終わっても参考書とにらめっこしている変人とか、埋まらなかった解答欄を嘆いているやつとか、例外はいたけれど。



ぼくは、だれと話すこともなく席を立った。ガガッ、と椅子の脚が床とこすれた。

それから、ふらふらと廊下に出た。日が照っていなくて、夏用の半袖だと肌寒い。

校則は変なところに厳しい。体調管理より、衣替えの日にちの方が大切だなんて、おかしいと思わないのか。


もう何度も考えて、意味の無い問だと、その度に考えること自体をやめにしてきたはずなのに。きょうはなぜだか、押し込めてしまえなくて。

足もとに向けて、大げさにため息を吐いた。



教室をひとつ挟んだところにあるトイレの前では、学年でも目立つお調子者のグループが騒いでいた。彼らもいつも点数が低いけれど、このすばらしい解放日にくよくよ悩んでなんかいられないとでも言うように、最近ドラマで人気の女優の話で盛り上がっていた。


いつものことなのに、やっぱりなんだか、きょうは変だ。

もやもやが収まらない。うざい、うざいとぼくの中でだれかがささやいていた。


ぼくは、邪魔にならないように体をちいさくして、彼らの顔を見ないようにして、中に入った。