「ないと思います。
たぶん」
「たぶん?」
「療養中の上司が選択定年をしようか迷っているようで。
そうしたら、補充があると思いますが」
「そうですか」
宗雅はM棟に入ると、1階で足を止めた。
「これ、倉庫ですか?」
背表紙のラベルは過年度の数字だった。
「はい。
でも鍵がないので、このままいただきます」
「待ってます」
差し出した手を無視して、宗雅はそのまま倉庫の方向へ歩き出した。
「ありがとうございます」
階段を駆け上がる音に思わず見上げる。
さらりと舞う、ストレートの黒髪。
あ、なんか珍しいもの見たかも。
思わず、口元を緩めた。

