どきりとすると、彼女はまっすぐと碧を目指して歩いてきた。


思わず後ずさる。


目の前に立たれると、顔立ちなのか、背の高さなのか、オーラなのか、よくわからないが、あまりの迫力に後ずさった。


“英語しゃべれません”と言って逃げようとしたとき、彼女が先に口を開いた。


「あなた、日本人?」


完璧で標準の日本語だ。


「あの」

「お願い」


二の腕をがっちりと掴まれる。


「ちょっとだけ居候させて」


そうやって捕まった。


嫌だったけど、数時間だけでいいから、と言うし、悪い人には見えなかったし、なにしろ文無しだった。


ほら、と言って持っていた高そうな小さなクラッチバックには口紅とハンカチしか入っていなかった。


「大丈夫、数時間だけだから」


そう言いながら、気がかりそうに後ろを振り返る。


追われているのか。