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時は、クリスマスの頃。


結婚して初めてのクリスマスなのに、碧なりに気合が入っていた。


クリスマスディナーのメニューを考えるため、ロンドンでお馴染みのブルーグリーンの看板のスーパーを歩き回った
その帰り道。


彼女を“拾った”。


拾ったというより、捕まった。


ロンドンの冬の夜の街で、体の線ぴったりに作られた真紅のドレスを着て、10センチのハイヒール姿で歩いているの
は、とても目立つ。


一瞬、TVの撮影で何かのイベントかと思った。


その美貌とオーラで、芸能人だと思ったのだ。


すれ違う男たちが、振り返ってぶしつけに視線でなでるが、声をかけるのは誰もいなかった。


かけられない雰囲気があった。


碧はほけっとその姿を目で追っていると、彼女は突然足を止めて、顔を向けた。


視線がばちりと合う。